遺産預金の払い出し

弁護士中林です。昨年行われた相続法(民法相続編)の改正ですが、多くの改正規定について、本年7月から本格施行されます。
先週末に、遺産預金の払い出し制度について報道がされましたが、これも相続改正法の施行の目玉の一つです。

遺産の預貯金払い出し可能に 7月から、上限150万円(朝日新聞 2019.6.16記事)
https://www.asahi.com/articles/ASM6F0GJ0M6DULFA03Z.html

記事にもありますが、金融機関が相続発生を覚知すると、被相続人の預貯金は凍結、出入金不能の状態となります。葬儀費用や死後に請求される医療費の支払いについて、相続人の一人が立て替えて支払うことが通例でしたが、相続人が任意に立替に応じるか、医療機関や介護施設にとってはやや不安定な要素を感じる場面でありました。
こういう場合に備えて、被相続人亡くなることが予測されると相続人の一人が数百万円出金しておくということも多く見られましたが、急死の場合にはやはり誰かが立て替えざるを得ませんでした。
上記の不都合に対応する枠組みとして、預金は遺産分割において分割されるべきとの原則と調整のうえ、遺産預金の払い出し制度が改正法に盛り込まれました。

払い出し金額の上限

記事では上限150万円とされていますが、間違いとはいえないものの、制度の枠組みはもう少し複雑です。相続人の一人が遺産分割前に払い出しを求められる金額を以下検討してみます。
まず、150万円の上限の前提として、当該預貯金口座(預貯金債権)に対する法定相続分の3分の1までの金額という制限が法律上規定されました(改正民法909条の2)。
相続人が被相続人の子4人、相続時の口座残高が1200万円の例でいうと、相続人一人の法定相続分は4分の1で、この預金に対しては300万円の権利を有しています。さらに払い出し制度では「法定相続分の3分の1」の制限が規定されていますので、300万円の3分の1、すなわち100万円が出金可能な金額ということになります。
上記の例で口座残高が2400万円の場合、法定相続分(4分の1)の3分の1は200万円となりますが、このときに150万円の制限が適用されます。
この150万円の上限は法務省令において、遺産預貯金口座(預貯金債権)1件あたり払い出し上限として規定された金額です。150万円の制限が適用されて、払い出しは150万円までなら可能ということになります。
法定相続分の3分の1や150万円までの上限は預貯金口座ごとの制限ですので、他に預貯金口座があればまた上記の制限の範囲で払い出しが可能となります。

相続分より多く払い出した場合

遺産分割の結果、自分の相続分が事前に払い出した金額を下回ることがあります。
その場合は払い出し制度によって最終的な相続分を上回って出勤した金額について、他の相続人に返金(不当利得といいます)することとなります。
話し合いが円滑に進む場合も、もめる場合も、現実には不当利得返還を含む合意を決めるべきでは無いと思います。
払い出しの時点で具体的な遺産分割がどのような形になりそうか、事前の予測が無ければやはり遺産分割はうまくいかないものと思います。