弁護士中林です。今回は、遺産分割における話し合いをどのように準備するか、考えてみたいと思います。

1 ストーカー被害は防げるか

話のとっかかりとして、相続からちょっと離れた話題からスタートです。

ストーカー行為がエスカレートした暴行、殺人が問題となる場合、たいていの被害者は警察に事前に相談しており、警察の対応がどうであったかを問う論調で報道がされます。

ストーカー行為の事情把握の程度、加害者への注意・説得の回数にいろいろ差が出て来るのでしょうか、警察がストーカー行為を行う加害者を身柄拘束することは犯罪でなければできませんし、四六時中被害者および加害者の様子を監視したり、ボディガードすることも不可能です。すなわち物理的にストーカーによる暴行を防ぐことはどれだけ警察が注意していても不可能といってよいのです。

国家・公権力の義務、その反面である国民の側の人権の内容として、国家が個々の国民に対し、何かを給付する・サービスを提供するという義務は存在せず、国民の側にもそれを求める権利は存在しないというのが、標準的な憲法解釈です。

そもそも社会というのはそういうもので、重大な例外として生存権規程に基づく生活保護と、政治判断による医療保険制度、各種介護サービス制度が存在します。これらの社会福祉制度は国家の具体的義務ではなく政治判断に基づくサービスです。

警察に対しストーカーから四六時中守って欲しいということを求めたところで、予算・人員に限りがありますし、ストーカー被害を恐れる全ての人にそのような「サービス」は提供できません。警察の側のそのときの業務上の余裕によって、守られるか守られないかが左右されることになりかねません。

報道が、警察の対応に問題があったのでは?という問いの立て方は、公権力のあり方に対して無知なのか、知りながら一部の視聴者に心地よい論調を流し視聴率を上げようとしているのか。

そのような報道でも、警察の側あるいは知事の側は市民の目を意識するため、ストーカー被害防止を重点目標に掲げるのでしょう。しかし、公権力が本来働かない場面であることに変わりはなく、「警察は助けてくれるもの」という誤解を広めているだけという気がしてなりません。

 2 接触の有無は相手しだい

余談が多くなりました。今日の本題はストーカー被害が防げるかどうかということではありません。防げないということは、一線を超えて暴行・脅迫に及ぶかどうかは加害者の意思・行動に委ねられています。

では、いかなる対応も無意味なのかというと、最終的な行動を物理的に防ぐわけでは無いが、行動を制約する状態すなわち最終的行動を違法と色づける対応には十分な異議があると思います。

ストーカー被害が全くの赤の他人から加えられるということもありますが、多くのケースは一度面識があるとか、かつて交際する深い関係にあった、離婚した元夫婦というものです。この場合、加害者からの接触が直ちに違法と判断できるかどうかは微妙と言わざるを得ません。険悪になっては元のさやに納まることを繰り返すのが、人間関係の常だからです。

ですので、警察に相談し、注意を促すことで、接触が違法であることを「色づけておく」必要があります。「色づける」とは、自分は接触を拒絶しているということを客観的な主張、資料、状況として位置づけることです。相手に対して文書で接触を拒絶することを通知するのもこのような意図で行うものです。

単なる色付けですから、過度に相手の感情を刺激するのは、有効とは言えません。「接触をしないで下さい」「接触を拒みます」など意思が明確に伝わればそれで充分です。

単なる拒絶の意思を伝えることを超えて、過度に相手の感情を刺激してしまうのは、文書の通知によって、物理的に接触することを拒むことまで求めようとするからではないかと思います。接触を拒もうとして、表現がきつくなってしたところで、拒絶の意思を伝えるという点では何ら変わりはないことですし、かえって相手の行動を誘発する危険な行為であると思います。

報道されるようなストーカー暴行、傷害、殺人事件の背景として、文書というより、携帯メール、近年ではLINEメールにより、相手の感情を刺激する文言の送信があったのではないか、憶測ですが、経験に照らして感じてしまいます。経験上、私から送信した接触を拒む文書が相手の感情を過度に刺激し、暴力により接触を図ったというケースは皆無だからです。

 3 義務を無くす準備

突然ですが、ストーカー被害から離れて、相続の場面での「色づけ」作業を見てみましょう。

相続の場面では、相手の行為を「違法」とするということはあまり問題にはなりません。相続は純粋に民事上の権利・義務の有無が問題となる場面ですから、「相手の権利を無くす」あるいは「こちらの義務を無くす」ために「色づけ」作業を行うこととなります。

ストーカー被害と似た話で、相手が遺産の分割を要求してくる、調停・訴訟など裁判所の手続きを申し立てる、これ自体は権利があろうが、無かろうができることですので、防ぐことは非常に難しいです。

しかし、相手が遺産分割の請求をしたり、訴訟を起こした場合に、自分の「義務を無くす」準備をすることで、対応が非常にスムーズになりますし、不利な条件で和解せざるを得ないことは無くなります。

これは、相談を受けた弁護士が考えることとして、非常に重要な視点です。

 

一般社団法人相続ワンストップ相談所
副理事長 弁護士 中 林  良 太

 

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