1 相続人間で話し合い

弁護士中林です。

遺産分割協議の第一段階は、相続人間で時間を設けて話し合いを行うことです。

話し合いの結果、誰がどれだけ遺産を取得するかを遺産分割協議書に記載して、相続人全員の署名と実印での押印を揃えます。

不動産については法務局で相続登記の手続きを進める場合に遺産分割協議書が必要になります。

預貯金については、各金融機関で解約の書式を設けていますが、金融機関ごとに書式が違うので、遺産分割協議書を一つまとめてしまうのが効果的です。

さらにいうと、不動産の登記手続きと、預貯金の解約手続きを並行して進められるように、遺産分割協議書と印鑑証明書、それから戸籍書類も2部ずつ用意すると迅速に手続きを進めることができます。

2 兄弟からの連絡がきた

「兄弟から実印を押して欲しい、印鑑証明書を送って欲しいと連絡があった」というのはこの段階の話です。

遺産分割の話し合いを行うのに、決められた「ルール」と言ったものはありませんし、伝統的な儀礼というものも存在しません。なにせ、現行民法は戦後、家長制度が崩壊してからの規程ですので。

それにもかかわらず、遺産分割の進め方が「非常識」だと声をあらげて、自分の利に適った方向に遺産分割を進めようとする方がいたり、反対に何も言わずただ「急ぐから印鑑を押して欲しい、印鑑証明書を送って欲しい」と遺産分割の内容をあやふやにしたまま、有利に進めようとするやり方を見ることが多いです。

こういう進め方を見るにつけて、「法律の素人」ではなくて、「話し合いの素人」「交渉の素人」の進め方だと思ってしまいます。

また、こういう不適切なやり方に対して「仕方ない」「面倒だから」と全面的に自分の主張をあきらめたり、反対に「何か怪しい、もう信用できない」と全面的に話し合いを拒絶する方が多いのも現実です。

話し合いを嫌悪するのは「和を以て貴しとなす」日本人独特の感覚ですが、「和を以て・・・」の精神に付けこんで無理を通そうとするやり方には、やはり毅然と立ち向かわないと、一事が万事、取りかえしのつかないことも起こると思います。

3 手順を踏めば険悪にはなりません

兄弟姉妹など親しい関係、ちょっとよそよそしくても叔父甥の関係、いとこの関係でこじれたくない、こじれたところを世間に見せたくないという思いは、私自身も含め多くの方が共通に持つものです。

しかしながら、こちらの情に付けこまれて、自分の犠牲のもとで、他の相続人が利益を得るということも、我慢できないことかと思います。実際の遺産分割は、このような相続人の気持ちに加え、遺産となる財産や情報を隠しているとか、他の兄弟は生前親に良くしてもらった、などの事情が加わり、なかなか折り合いを付けにくくなっていきます。

どのように進めれば、事を荒立て過ぎず、我慢することもなく、相続の話し合いをできるか、以下の点がポイントとなると思います。

①遺産の内容を知る

「何」を分けるのか、解らなければ話になりません。また漠然と「自宅と預金のみ」と分かっていたとして、どれくらいの広さか、形状は、持分は、評価額は、預金はどの銀行のどの支店か、預金残高は、預貯金の種類は。いろいろありますが、これらの情報を相続人全員が把握できることを前提に、話し合いを進めることができるはずです。

②分け方を提案する。

提案される側では無くて、提案する側になりましょう。自分からは具体的に提案できないというのでは、話は前に進みません。

提案の中に、生前贈与を受けたことや、逆に被相続人の介護等に支出をしたこと、葬儀費用を負担したことなどを取り入れて、金額の調整を図ります。

③時間をかけ過ぎない

相続の話し合いは時間がかかりますが、だからといって先延ばしにしながらでは解決は遠のくばかりです。②と重なりますが、自分の側から積極的に提案して話を先に進めようとしなければいけません。

 4 話し合いの限界

どれだけ、相手の立場に配慮し、話し合いを進めようと努力しても、最終的に相手が合意すると言わなければ、話し合いはまとまりません。

遺産の内容について共通認識を持ち、様々に調整を図って遺産分割案を提案しても、他の相続人が遺産分割協議書への署名・押印に協力しない可能性はあります。

この場合には、ある程度条件を相手に有利に設定して合意に近づけるという方法もあります。ただ、遺産分割において難しいのは、一人の相続人に対して有利な条件を出せば、他の相続人にも同じ条件で話さなければならない、相続人間で公平で扱われることに対して、非常に強い要求があることです。平たく言えば、兄弟姉妹は公平に扱ってほしいという要求です。

ですから、条件緩和して合意を促すには限度があります。この場合は家庭裁判所での遺産分割調停、審判それから地方裁判所での民事訴訟の手続きを利用することとなります。

この段階になれば、ためらわずに裁判所の手続きを利用しなければ、解決は訪れません。

そして、話し合いの限界を見極め、迅速に裁判所の手続きを進めるためにも、この段階になれば、弁護士への相談をお薦めしたいです。